大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(ネ)2534号 判決 1996年3月12日

控訴人

パトリシア・ダニエルズ

右訴訟代理人弁護士

長谷川健

藤勝辰博

被控訴人

日本アムウェイ株式会社

右代表者代表取締役

リチャード・エス・ジョンソン

右訴訟代理人弁護士

野村晋右

田川貴浩

被控訴人補助参加人

パトリック・ジェームス・ダンフオード

(以下「参加人」という。)

右訴訟代理人弁護士

斉藤信一

成田信子

武藤佳昭

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人と被控訴人との間において、控訴人が原判決別紙目録記載の契約上の地位の二分の一を有することを確認する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項同旨

第二  事案の概要

本件は、原審において、控訴人が被控訴人に対して、原判決別紙目録記載の契約(以下「本件契約」という。)上の地位の二分の一を有することの確認を求めた事件に、参加人が被控訴人に対して提起した、本件契約上の地位を参加人が単独で有することの確認を求めた事件を併合して審理し、原審が、控訴人の請求を棄却し、参加人の請求を認容する判決を言い渡したところ、これに対して、控訴人のみが控訴した事案であり、被控訴人が、当審において、本件の訴訟構造、控訴審の態様について、次のとおり主張したほかは、事案の概要は、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄(ただし、原判決二枚目裏七行目から同五枚目裏九行目まで)に記載のとおり(ただし、原判決五枚目裏八行目冒頭から九行目の「関係では、」までを削る。)であるから、これを引用する。

「一 本件契約の一方の当事者は、控訴人と参加人であるが、控訴人と参加人は、被控訴人との間の本件地位を合有する関係にあったから、控訴人が提起した訴訟と参加人が提起した訴訟は、固有必要的共同訴訟であり、控訴人の控訴提起により、参加人提起の訴訟部分についても、移審の効果が生じたものというべきである。

二 仮に、右の関係が、控訴人と参考人の合有関係ではなく、準共有関係としても、本件は共有物分割請求の性質を有するから、固有必要的共同訴訟というべきである。

三 控訴人は、控訴状に、原判決の取消し及び被控訴人に対して本件契約上の地位の二分の一が控訴人に帰属する旨の確認を求めただけでなく、参加人をも被控訴人として表示した上、参加人の請求を棄却する旨の裁判を求めた(後に、平成七年十二月四日にこれを取下げる旨の控訴取下書を提出した。)から、控訴人は、被控訴人に補助参加して、被控訴人の参加人に対する控訴権を行使したものと言うべきであり、少なくとも、訴訟行為の転換により、右の趣旨で参加人と被控訴人との間の訴訟も移審の効果が生じたものというべきであるから、その後の控訴人の参加人に対する控訴の取下げは、被参加人たる被控訴人の明示の意思に反してその効果を生ずることはない。」

第三  当裁判所の判断

一  先ず、被控訴人が当審において主張する本件訴訟の構造、本件控訴の態様についての当裁判所の見解は、次のとおりである。

1  被控訴人は、控訴人と参加人が有する本件地位は、共有ではなく合有の関係と解するべきであるというのであるが、被控訴人の主張によれば、一般に、被控訴人が締結するディストリビューター契約は、夫婦の場合には契約上の地位を共同で保有することを認めているが、離婚時においてはこれを分割することも予定していたというのであるから、夫婦の共同名義によるディストリビューター契約上の地位は、合有の性質に適合しないものであり、控訴人と参加人の本件地位が合有関係であったとする被控訴人の主張は、採用できない。

2  次に、被控訴人は、本件は、共有物分割の性質を有するから、必要的共同訴訟であると主張するが、控訴人の本件訴訟における請求及び参加人の原審における請求は、控訴人及び参加人が別個に被控訴人との間の本件地位の確認を求めているにすぎず、控訴人と参加人とがそれぞれの内部的持分の確定を相互に求める趣旨を含むものでないことは明らかであるから、被控訴人の右主張も採用できない。確かに、被控訴人が、参加人との間で敗訴し、控訴人との間でも敗訴すれば、被控訴人は控訴人と参加人が夫婦であったときに有した以上の契約関係を維持しなければならないこととなるが、それは関連事件の判決が相互に矛盾する場合に、常に生ずる問題であり、そうした事態を生ずる可能性があることは、本件が固有必要的共同訴訟であることをなんら基礎付けるものではない(現に、被控訴人は、原審において、控訴人との間の訴訟においても、これとは別個に提起された参加人との間の訴訟においても、固有必要的共同訴訟であることを理由に却下判決を求めた事跡はなく、却っていずれの訴訟についても請求棄却を求め、両判決が抵触することを避ける趣旨で、両事件の併合審理を上申していたものである。)

3  さらに、被控訴人は、控訴人が控訴状を提出したことによって、控訴人は、参加人と被控訴人間の訴訟に被控訴人を補助するため補助参加するとともに、これと同時に、被控訴人の参加人に対する控訴権を行使したものである旨主張する。確かに、控訴人が提出した控訴状によると、被控訴人の表示として被控訴人会社名を記載したのみでなく、参加人の氏名を「被控訴人(原審甲事件被告補助参加人及び乙事件原告)」の肩書のもとに表示し、かつ、控訴の趣旨において、参加人の請求を棄却する旨の判決をも求める旨が記載されていたことは、記録上明らかである。しかし、この事実のみから、控訴人が、参加人と被控訴人との間の訴訟に被控訴人を補助するために参加し、かつ、補助参加人として被控訴人の参加人に対して有する控訴権を行使したものと解することはできないといわざるを得ない。すなわち、控訴人は、原審において補助参加の申立てをしていないから、仮に被控訴人を補助するために参加人と被控訴人との間の訴訟に補助参加するのであれば、参加の趣旨及び理由を明らかにしなければならない(民事訴訟法六五条一、二項)ところ、右控訴状にはこれに関する記載はなく、控訴人の表示に「参加申立人」である旨をうかがわせる記載も、被控訴人の表示に「控訴人」又は「被参加人」である旨をうかがわせる記載もないから、右控訴状から被控訴人主張の趣旨を読み取ることは困難である。また、控訴人は、当審第一回口頭弁論期日において、参加人から「参加人に対する控訴を却下する」旨の訴訟判決を求める旨の答弁を受け、さらに当裁判所から参加人に対する控訴権の根拠を釈明されたのに対して、前記控訴の取下書提出に至るまでこれを明らかにしなかったのであって、右の経過に鑑みると、控訴人は、控訴状提出時点において、参加人と被控訴人間の訴訟に被控訴人のために補助参加する意図も、被控訴人が参加人に対して有する控訴権を行使する意図も有していなかったものと認めざるを得ない。そして、参加人と被控訴人との間の訴訟について、前記の経過により、被控訴人敗訴の判決が言い渡されたのであるから、被控訴人において控訴を提起すれば、控訴人の本件控訴があっても、再び併合審理を求めることにより、抵触する判決を事実上回避する方法が確保されていたことを斟酌すると、本件において、被控訴人主張の訴訟行為の転換を考慮しなければならない事情は見当たらない。

したがって、原審における参加人と被控訴人との間の訴訟は、控訴期間の経過により確定したもので、控訴人と被控訴人との間の訴訟のみが当審に係属したものというべきである。

二  本件外国判決が確定した事項については、次のとおり訂正するほかは、原判決の九枚目表八行目から同一二枚目裏四行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決九枚目裏一行目の「乙事件原告が」から同三行目の「有しない」までを「参加人に本件地位の単独の所有権を付与すること、控訴人は参加人に対して本件地位の譲渡をすべきこと、右譲渡により控訴人は本件地位の所有権を一切失う」に改め、同四行目の「三〇万ドルの」の次に「裁定額の」を加える。

2  同一〇枚目表七行目の「甲事件原告が」から同一二枚目裏四行目までを、「参加人と控訴人との間では、共同財産であることを解いて、参加人の単独所有とし、控訴人の持分はないことを確定するとともに、これを対外的にも実現するために、控訴人から参加人への譲渡行為(これが具体的には何を指すかは本件外国判決は明示していないが、控訴人から参加人への譲渡証書の作成、引渡しや、被控訴人に対する譲渡通知などが想定される。)を要するとの考えのもとに、控訴人に対して本件地位の譲渡を命じ、併せて控訴人が右譲渡行為を任意に履行しない場合に備えて、参加人に控訴人から三〇万ドルの裁定額の支払を受ける権利を認め、控訴人がすべての権利の譲渡行為を完了することによって、右裁定額の支払義務を消滅させることができるものとしたことが明らかである。

よって、本件外国判決は、少なくとも控訴人と参加人との間において、本件地位はすべて参加人に帰属し、控訴人の持分は存在しないことを確定したものというべきである。」に改める。

三  本件外国判決の控訴人と参加人との間の国内的効力については、次のとおり訂正するほかは、原判決の一三枚目表二行目から一四枚目表四行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決一四枚目表三行目から四行目までを「よって、本件外国判決は、参加人と控訴人との間の本件地位の帰属を確定した部分を含め、我が国が、なんらの手続を要することなくこれを承認すべきものであるから、例えば控訴人又は参加人が、本件地位について、我が国の民法に基づいて財産分与ないしは共有(準共有)物の分割請求をしても、本件外国判決の既判力により、我が国の裁判所は判決をなしえないものというべきである。」に改める。

四  してみると、控訴人は、本件地位を参加人と共有(準共有)していたものであるが、本件外国判決の確定により、本件地位はすべて参加人に帰属し、控訴人はその持分を確定的に失ったものであるから、本件外国判決の被控訴人に対する拘束力を論ずるまでもなく、本件地位の二分の一が控訴人に帰属することの確認を求める本件請求は理由がないものといわなければならない。

第四  結論

よって、控訴人の請求を棄却した原審判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官野田宏 裁判官森脇勝 裁判官髙橋勝男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例